🌍🐾 世界の動物・昆虫ニュース — 2026.09.22
新種 2件 + 新知見 3件 = 計5件
🔬 新種発見 ― 2選
1.
1,033km離れた3か所で、たった3匹 ― マダガスカル東部の雨林から「暗い」新種のトンボ Paragomphus matroka。黄色い親戚たちの中で、ひとりだけ褐色の顔をしていた
昆虫(トンボ目・サナエトンボ科)マダガスカル東部 湿潤林(ツィトンガンバリカ保護区ほか)2026
📷 Jeevan Jose / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0) | ※イメージ:同属種 Paragomphus lineatus(インド・ケーララ州) 新種 P. matroka は同属の「斑点型」の仲間より全体にずっと暗く、胸の淡色斑が小さい。写真は黄色と黒の典型的なフックテール
「フックテール」と呼ばれるサナエトンボの仲間 Paragomphus 属は、オスの腹部の先端が鉤(フック)のように曲がることからその名がついた。アフリカからアジアにかけて広く分布し、マダガスカルにも固有種が数種いる。スロベニア、ポーランド、台湾の研究者からなる国際チームは、そのマダガスカルから新種 Paragomphus matroka を記載し、Zootaxa 誌に発表した。英名は「ダーク・フックテール」、仏名は「パラゴンフ・ソンブル」――どちらも「暗い」を意味する。ホロタイプ(種の基準となる標本)のオスは2024年12月4日、島の南東端に近いツィトンガンバリカ天然林保護区のアンパシ川支流で採集された。ほかに知られている標本はわずか2つ。パリの国立自然史博物館に収蔵されていた1匹と、ストックホルムのスウェーデン自然史博物館の1匹で、それぞれ島の中東部と別の地点で採られたものだ。3か所は島の東側に散らばり、直線距離にして1,033kmも離れている。それでも3匹は「同じ種」と判断された。決め手は色ではなく形だった。3個体の色彩パターンにはかなりの変異があるものの、オスの副性器(第2腹節にある交尾器官)と尾部付属器の構造がほぼ完全に一致していたのだ。近縁なのは、同じくマダガスカル固有で胸に「斑点」模様をもつ P. fritillarius と、2026年に記載されたばかりの P. sofiae。この2種が黄色と黒を基調とした明るい体色なのに対し、新種は全体にずっと暗く、胸の淡い斑紋は小さくまばらで、顔は黄色と黒がまじる近縁種と違ってほぼ褐色一色。さらに副性器の鉤(ハムルス)の形もはっきり異なる。マダガスカル湿潤林エコリージョンに固有の大型種で、既知の生息地はいずれも東部の熱帯雨林だ。1,033kmにわたる分布域で、これまで採集されたのがたった3匹という事実は、この島のトンボ相がいかに調べられていないかを物語る。著者らは「分布、分類、季節性、生態的要求の知見を深めることが、固有トンボ類の絶滅リスク評価と保全のために不可欠」と述べ、マダガスカルでの集中的な調査の必要性を訴えている。
2.
何十年も「別の種」と呼ばれていた、豪州でいちばん写真に撮られるナナフシ ― クイーンズランドから新種2種 Anchiale robusta と A. mabiensis。片方の卵には、昆虫界で前例のない「輪っか付きのふた」
昆虫(ナナフシ目・ナナフシ科)オーストラリア・クイーンズランド州(沿岸熱帯雨林・アサートン高原マビ林)2026
📷 Greg Tasney / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0) | ※イメージ:同属種 Anchiale austrotessulata(豪州) 新種2種はいずれも翅のある大型のナナフシ。A. robusta のメスは体長16.2cmに達し、後翅の暗い模様を広げて威嚇する
オーストラリアで最もよく写真に撮られ、市民科学サイトに最も多く投稿される昆虫のひとつが、大型で翅をもつナナフシ Anchiale 属だ。iNaturalist や Atlas of Living Australia には1,000件を超える観察記録があり、何十年も研究されてきた。ところが、その「よく知られた」虫の中に、名前のない種が2つも隠れていた。シドニー大学のブラクストン・ジョーンズ博士らは、博物館標本と野外採集個体、32個体のミトコンドリアDNA、市民科学の記録、さらに飼育個体群の観察を組み合わせて、オーストラリア産 Anchiale 属を初めて包括的に見直した。結果は Austral Entomology 誌に9月21日付で発表された。従来2種とされていたものは、実際には5種に分かれた。最大の驚きは、研究者にも愛好家にも長く知られていた大型のナナフシが、実は何十年も別種と取り違えられていたことだ。これが新種 Anchiale robusta として記載された。メスは体長16.2cmに達し、クイーンズランド州タリーからクックタウン以北まで、450km以上にわたる沿岸熱帯雨林に分布する。アカシアなどさまざまな植物を食べ、メスは暗く模様のある後翅をぱっと広げて威嚇する。もうひとつの新種 Anchiale mabiensis は、アサートン高原に残る「絶滅寸前」の希少な森林タイプ、マビ林からしか見つかっていない。メスでも体長11.5cmほどと小ぶりで細身。グレー・サッサフラス(Doryphora aromatica)を食べる。特筆すべきはその卵で、ほかの豪州産 Anchiale より褐色で光沢が弱く、卵の「ふた」に2〜3本の輪が刻まれている。こうした輪はナナフシはもちろん、バッタやゴキブリを含む直翅系昆虫のどの目でも、これまで記録がない。チームはまた、100年以上にわたって A. briareus に含められてきた中部クイーンズランドの A. albopunctata を、形態と遺伝子の両面から独立種として復活させた。ケープヨーク半島にはさらに未記載種がいる可能性も指摘されている。この見直しには実用的な意味もある。Anchiale 属には、時に「大発生」して樹木の葉を食べ尽くす種が含まれるが、それが実は複数種からなることがわかった。どの種がいつ、どこで発生するのかを整理できれば、林業や農業への影響管理に役立つ。「分類学は探偵の仕事に似ています。オーストラリアで最も撮影され、最も報告されている昆虫の中にさえ、科学的に認識されていなかった種がまだ見つかるのです」とジョーンズ博士は語る。
🧠 既知種の新たな発見・知見 ― 3選
3.
世界で唯一「歌う」キツネザルは、オペラ歌手と同じ発声法を使っていた ― 高い音ほど口を大きく開けるインドリ。7,400万年の隔たりを越えた収斂進化
哺乳類(霊長類・インドリ)マダガスカル東部 マロミザハの森音声コミュニケーション・発声の運動学(フォルマント調整)
📷 Heinonlein / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0) | ※イメージ:インドリ Indri indri(マダガスカル・アンダシベ) 研究はマロミザハの森の野生個体19頭を撮影した83本の動画で行われた。写真は別の森で撮られた同種
オペラ歌手が高音を伸ばすとき、口は大きく開く。これは訓練の成果で、口を開いて声道の共鳴周波数を声の倍音に合わせ、音を増幅する「フォルマント・チューニング」と呼ばれる技術だ。マダガスカルの雨林に暮らすインドリ Indri indri が、これとよく似た技を使っていることがわかった。英ウォーリック大学とイタリア・トリノ大学の研究チームが PLOS Computational Biology 誌に発表した。インドリは、世界で唯一「歌う」ことが知られているキツネザルだ。複雑で物悲しい歌は森の遠くまで届き、群れの絆を強め、隣の群れに「近づくな」と告げる。研究チームはマダガスカル東部のマロミザハの森で、野生のインドリ19頭を撮影した83本の動画を解析した。現場で録音した音声と、マーカーを付けずに姿勢を推定するコンピュータビジョン技術を組み合わせ、上唇と下唇の位置を1コマずつ追跡し、口の開き具合と声の基本周波数の変化を突き合わせたのだ。結果ははっきりしていた。歌の音程が上がるたびに、インドリの口は広がっていく。「コマごとに口が大きく開いていくのが見えました。声と体の精密な協調は、私たちがふつう訓練された人間の歌手に結びつけるもので、森の樹冠で歌うキツネザルに期待するものではありません」と、責任著者のキアラ・デ・グレゴリオ博士は語る。野生のインドリが口の開きと歌の周波数を協調させているという直接の証拠は、これが初めてだ。密な森で声を届けなければならない動物にとって、声道の共鳴を調整して音を増幅できるかどうかは、「歌が届くか届かないか」の差になりうる。第一著者のフィリッポ・カルガーティ博士は「野外の映像にマーカーレスの姿勢推定を適用することで、インドリがどんな音を出すかだけでなく、その背後にある体の動きまで見られるようになった。音声だけでは決して捉えられないものです」と話す。ヒトとインドリの共通祖先は約7,400万年前にさかのぼる。発声の仕組みがこれほど似ているのは、遠く離れた系統が同じ課題に同じ解を独立に見つけた「収斂進化」の結果と考えられる。人間の歌手がレッスンで身につける技を、インドリは森の中で、誰に教わることもなく使っているのだ。
4.
「膝まで」の浅瀬が、サメの寝室だった ― カリブ海の島で1日に27匹のコモリザメが交尾。世界で2か所目の大規模繁殖地は、わずか150mの海岸線に集中していた
魚類(軟骨魚類・コモリザメ)英領ヴァージン諸島 アネガダ島 ウィンドラス・バイト繁殖生態・交尾場所の特定と保全
📷 Wikimedia Commons(パブリックドメイン) | ※イメージ:コモリザメ Ginglymostoma cirratum 研究対象と同じ種。カリブ海と西大西洋の浅い海にすみ、日中は海底でじっとしていることが多い
サメがどうやって交尾するかは、科学者にもだいたいわかっている。だが「どこで」交尾するのかは、ほとんどわかっていない。野生のサメの交尾は極めてまれにしか観察されず、多くの種が毎年戻ってくる交尾場所を守ろうにも、その場所がわからないのだ。カリブ海のコモリザメ Ginglymostoma cirratum のように、交尾の頻度が低く、妊娠期間が長く、一度に少数の子しか産まない種では、好みの交尾場所への影響が個体群を揺るがしかねない。マサチューセッツ大学アマースト校のグレース・キャッセルベリー博士は、英領ヴァージン諸島のアネガダ島、ウィンドラス・バイトの浅瀬でコモリザメが交尾しているという情報を得た。調べてみると、そこは世界で2か所目となる大規模な交尾場所だった。「同じくらい多くの交尾中のコモリザメが記録されているのは、世界でもドライ・トートゥガス(米フロリダ)だけです。ある日には、浅瀬に密集した群れの中で27匹のコモリザメを目にし、交尾は一日中続いていました」。成果は Environmental Biology of Fishes 誌に発表された。コモリザメは、岸に近いごく浅い場所を好んで交尾していた。「膝の深さがちょうどいいスポット」だとキャッセルベリー博士は言う。しかもそのすべてが、長さおよそ150mの範囲で起きていた。「つまりこの場所は人間の攪乱にとても敏感です。この海岸線が開発されれば、この群れの交尾場所は消えてしまう」。研究者が近づくだけでもサメたちは落ち着かない様子で、人目のないところで交尾したがっているように見えたという。共著者のアンディ・ダニルチュク教授は「ここはサメたちの寝室です。この場所には何か特別なものがある」と語る。世界のサメの多くは乱獲で減ってきたが、保護の効果で回復の兆しを見せる種も出てきた。回復を確かなものにするには、ウィンドラス・バイトのような繁殖の「寝室」を見つけ、守ることが欠かせない。同じチームは別の論文で、米国北東部の釣り人954人を対象に、釣った魚をサメやアザラシに横取りされる「デプレデーション」の初の実態調査も行っている。サメとアザラシがともに増える海で、人と捕食者がどう共存するか。「これは人間の問題です」と研究者たちは言う。
5.
ティラノサウルスの体温は36.3℃ ― 3本の歯のエナメル質から初めて「実測」された恐竜の体温。ゾウやヒトと同じ温血で、隣に住むワニより5℃以上も温かかった
恐竜(獣脚類・ティラノサウルス科)米モンタナ州 ヘルクリーク層(後期白亜紀)古生理学・クランプト同位体による体温復元と内温性
📷 Amphibol / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0) | ※イメージ:ティラノサウルス・レックス「スー」(シカゴ・フィールド自然史博物館) 分析に使われたのはモンタナ州ヘルクリーク層産の別個体の歯3本。写真は最も有名な T. rex 標本のひとつ
ティラノサウルス・レックスは温血だったのか、冷血だったのか。成長速度、移動コスト、高緯度への分布など状況証拠は「温血」を示唆してきたが、体温そのものを自信をもって推定した研究はなかった。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のロバート・イーグル博士らのチームは、その数字を初めて出した。答えは36.3℃(誤差±2.5℃)。成果は Science Advances 誌に9月16日に掲載された。使ったのは「クランプト同位体温度計」という手法だ。歯のエナメル質を数ミリグラム削り出し、その炭酸塩の中で重い炭素13と重い酸素18が互いに結合している割合を測る。この「かたまり具合(クランピング)」は鉱物が形成された温度で決まるため、歯ができたときの体温を熱力学的に読み取れる。分析されたのは、モンタナ州カーター郡エカラカの南東にある後期白亜紀ヘルクリーク層から採集された3本の Tyrannosaurus rex の歯だ。得られた36.3℃という値は、インドゾウ(36℃)やアフリカゾウ(36.2℃)といった現生の大型哺乳類とほぼ同じで、ヒトとも変わらない。「こんな温度測定ができた人はこれまで誰もいなかった。爬虫類やナマケモノのような代謝の遅い哺乳類より高く、鳥類より低い――だいたい私が予想していた通りの温度です」とイーグル博士。比較のため、同じ生態系に生きていたワニ類の歯も分析すると、こちらは平均30.9℃。日光浴で体を温める現生ワニの冷血ぶりと一致する。捕食者と爬虫類の5℃を超える差は、T. rex が周囲の環境よりずっと高い体温を保っていた証拠であり、温血(内温性)の生理を示す。「体温を調節していたティラノサウルス像は、獲物を追い、あるいは死骸をあさって速い代謝を支える活動的な動物だったという説を後押しします。現生の非常に温かい鳥類の祖先として、冷血の恐竜からどれだけ離れていたかを示す時間軸にも一石を投じる」とイーグル博士は言う。チームはさらに、マーストリヒチアン期の北米の古気候シミュレーションを使い、この体温なら T. rex がどこに住めたかを検討した。結果、より寒い高緯度地域を含む広い範囲が生息可能と出た。アラスカ・ノーススロープまでティラノサウルス類の化石が見つかっている事実とも整合する。「白亜紀の温室気候の下でも、アラスカの冬は冷血の恐竜には寒すぎたはずです」と共著者のアレッサンドロ・キアレンツァ博士(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)は語る。この手法をほかの恐竜の歯に広げれば、恐竜の系統樹のどこまで温血が広がっていたのかが、いよいよ数字で語れるようになる。
🔗 https://www.sci.news/paleontology/tyrannosaurus-rex-body-temperature-15077.html
毎朝8時配信

コメントをどうぞ